第一原理思考とは、「物事の本質を掘り下げて考える」思考法です。 イーロン・マスクをはじめ、多くの成功者がこの考え方を活用し、革新的な事業を生み出しています。この、「第一原理」という言葉は元々、物理学の世界で重要な概念として発展してきました。 なぜ物理学が第一原理思考と深く結びついているのか?まずは物理学者がどのように世界を捉え、シンプルな法則から複雑な現象を説明してきたのかを俯瞰してから、その実践者としても有名なイーロン・マスクに焦点を当てます。

物理学とはなにか?—起源と歴史
どこまで遡るかによって、物理学という学問の捉え方は変わるかもしれません。この世界を理解しようとする試み、という意味で言えば、それは人間の、あるいは動物が生き残るための根源的な欲求であり、そういった意味で言えば世界観は全く異なるものの、旧約聖書や古事記も物理学かもしれません。
現代の物理学は、そういった世界を理解する試みの中で、いわば第三勢力として生まれた一種の宗教に近いものとも言えます。実は17世紀のニュートン以降、コペルニクス、ガリレオ、アインシュタインなど、物理学の分野で偉大な業績を収めた人物の中には多くのキリスト教徒がいます。「全知全能の神がこの世界を創ったのならば、世界には美しく調和の取れた法則があるはずだ」という思想が、彼らの探求の原動力であった側面もあるようです。
物理学は必ずしも宗教と対立するものではなく、この世界を理解したいという根源的な欲求に応え、人生に哲学を与えるという点では、むしろこれらは近い人間的な営みとも言えます。
ニュートンの運動法則と万有引力—宇宙を支配する法則の誕生

現代の物理学の手法や方向性の基礎を築いたのは、やはりニュートンでしょう。彼は、物理の基礎として今でも高校で習う、「ニュートンの運動法則(運動方程式とはー本質と直感)」を確立しました。重要なのは中身ではなく、そのアプローチにあります。
ニュートンは、地上で起きるあらゆる運動は、すべてがたった3つの非常に単純な法則で説明できることを発見しました。さらに「万有引力の法則」を発見し、それと同じ力が星にも働くことで、太陽の周りを惑星が回っていることまで説明したのです。
ニュートンは、ごく僅かな法則で、身の回りにあるあらゆる現象を説明し、さらにそれを、当時は全く未知の世界であった地球の外にまで適用したのです。このようなアプローチは現代まで続いており、物理学の究極のゴールは、宇宙にあるすべての物質やそれらの起源を「原理原則」から導くことにあるのです。面白いことに、これはディープラーニング的なアプローチとは対照的です (過学習とバリデーション)。
物理学における近似の考え方—第0近似・第一近似とは?

確かに物理学では「原理原則」が重要ですが、現実世界を正確に説明しようとすると、必ずしも単純にはいきません。それは、「原理原則が不完全だから」 なのか、「現実世界が複雑だから」 なのか、立場によって解釈が分かれます。
しかし、どちらの立場にせよ、そこには「本質を見抜く」という物理学の精神 が反映されているように思えます。つまり、物事には、その大部分を説明する「本質」と、それ以外の要素とがある という考え方です。
実際、物理学の計算ではしばしば近似的な計算が行われます。最も基本的で全体を説明する項を 「第0近似」、次に重要な項を「第1近似」とし、それらを無限に足し合わせることで任意の精度を得られるのです。単純化したモデル(第0近似)でほとんど正確に計算できることも多く、物理学においては非常に一般的な考え方と言えます。したがって、現代物理学の大きな特徴は、
- 物事の背後にある最も重要で前提となる「原理」を追求すること
- 原理から出発し、近似で本質から徐々に全体を説明することで複雑な現実問題を説明する
ことにあると言えます。
イーロン・マスクの第一原理思考とは?物理学的思考の実践

イーロン・マスクはロケットの低予算化について Wired のインタビューの中で「私は物理学のフレームワークで物事にアプローチする傾向がある」と語っています(原文はこちら)。
物理学は、類推ではなく、第一原理から物事を考えることを教えてくれます。それで私は、よし、第一原理から考えてみよう。ロケットは何でできてる?航空宇宙グレードのアルミニウム合金、そしてチタンや銅がすこし、そして炭素繊維。そこで私は考えました。これらの市場価格はいくあらだろう?と。結局、それらは一般的なロケット価格のたった2 %程度しかないことがわかりました。
マスクは理学と経済学を学んでいるということからも、もともと原理から考える傾向が強いというのはとても納得できます。実際、私自身や周りを見ても、理学にはこうした思考を持つ人が集まりやすいと感じます。
ここでいう第一原理とは、たんに物事を分解する「要素還元主義」ではありません。Inc 誌の同記事によると、第一原理とは「それ以上遡ることのできない基本的な前提、つまり、複雑な問題において、確実に正しいと言える事実」です。これは物理で言う原理、数学で言えば公理にあたります。ロケットの価格に関して言えば、材料以外のプロセスがコストの大部分、98%を占める、ということです。
Deep Seekもある意味で同じですが、従来の手法とは異なるアプローチで大胆にコストを減らすのは、イノベーションの一つといっていいでしょう。ロケットの大幅なコスト削減と再利用化は、従来の枠組みにとらわれず、ゼロベースで物事を考えたことが成功の原因だったのかもしれません。
DOGE省とは?—イーロン・マスクの改革戦略と第一原理思考

まとめ:第一原理思考とビジネスリーダーたち
理学の根本には、ごく少数の法則と原理から宇宙を記述しようという、第一原理思考があり、本質を見極めるうえで非常に強力なフレームワークとなります。以下、私なりに第一原理思考や注意すべき点をまとめました。
- ある事象に対し、問いを立てる。問題を分解し、遡れるだけ遡り、なにが確実に正しいと言えるのかを見極める。
- 常識にとらわれず、ゼロベースで考え、柔軟に考える。
- 現実は複雑ですべてを完璧にはできないことを受け入れ、割り切って近似する部分(第0近似)、次に第一近似、と、重要な部分から順番に補正していく。
- ハイレベルにおいては、それを実行するだけのリーダーシップも必要。人がついてこさせる力も必要。
第一原理思考は、イーロン・マスクの革新的なロケット(東洋経済オンライン)からジェフ・ベゾスなどに見られるように、ビジネスの分野で大きな成功を収めた例もあります。また、Netflix CEOのリード・ヘイスティングスの意思決定モデル(Forbes)も第一原理思考の考え方があり、ビジネスやイノベーションにおいて強力な武器になっているのは間違いでしょう。
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