数学の補足1-微分では、みなさんが事業をしているとして、その売上をネット広告のクリック数の関数として考えました。広告のクリック数が増えれば、より多くの人がホームページを訪れ、製品を購入する人が増えるため、一週間あたりの売上 \(S\) とクリック数 \(n_{\rm C}\) の間には以下のような関係があることがわかりました(横軸の単位はクリック数 [C]、縦軸は円 [Y])。

売上に影響する第二の量 – 価格
しかし、売り上げに影響するのはクリック数だけではありません。例えば、商品やサービスの価格も重要な要素です。事業の新規性が高く、競合が少なく、ニーズが強い場合、価格をあげても顧客があまり離れず、売り上げは価格の上昇分だけ上昇すると思われます。しかしあまりに価格をあげてしまうと顧客が離れ、売上が減少し出すと考えられます。従って、売り上げは価格の関数として下の図のように見えると考えられます。

以上から、売上は「広告のクリック数」と「価格」の2つの変数を持つ関数だと考えられます。実は、先ほどの2つの平面的な図は、下のように本来3次元的に表される売上関数Sを、価格Pがある一定の平面やクリック数 \(n_{\rm C}\) が一定の平面で切り取ったものだったのです。

偏微分の基本的な考え方
現実的には、私たちはかならずしもこの2変数の関数Sの形を知りませんが、1年間、一週間あたりの売上 \(S\) とクリック数 \(n_{\rm C}\) を記録したデータをもとに、理論と合わせてその関数を推定できたとします。すると前回と同様、微分を考えることで、最適な戦略を考えることができます。
変数が2つ(以上)ある場合でも、特に難しく考える必要はありません。基本的には、最初にお見せしたような各変数についての平面的なグラフ(たとえば \(n_{\rm C}\) vs \(S\)、\(P\) vs \(S\))で微分をすればいいのです。このように、多変数関数を各変数の平面上に限ってから微分する手法を「偏微分」といいます。
手順は以下の通りです:
- 注目する変数(たとえば \(n_{\rm C}\) または \(P\))を決める。
- 注目する変数以外を定数(固定された値)とみなす。
- 関数を注目する変数について微分する。
たとえば \(P\) に関する偏微分は、\(n_{\rm C}\) が一定の面で \(S\) を切り取った後に微分を行った結果を意味します。
ここで重要なのは、\(n_{\rm C}\) と \(P\) が独立であることです。もし \(n_{\rm C}\) が \(P\) の関数(またはその逆)で表される場合、結局 \(S\) は1変数関数となり、偏微分ではなく通常の微分で扱うことになります。
偏微分の練習
まずは売上関数から離れ、以下の簡単な関数で偏微分の計算練習をしましょう:
xについての偏微分
yを定数とみなしてxについて微分すると、
となります。ここで、定数とみなした y の微分はゼロになることに注意してください。
yについての偏微分
同様にxを定数としてyについて微分すると、
となります。これで偏微分が習得できました。
売上の最適化
次に、売上関数 \(S\) として以下のような式を仮定し、売上を最適化してみましょう(先程お見せした図です):
ここで、
とします。パラメータは次の通り:
- \(n_{C0} = 50\)
- \(P_0 = 40000\)
Cはクリック数、SPCは1クリックあたりの売上(Sales Per Click)を示します。
Pについての偏微分
価格Pの変化が売上に与える影響を調べるため、Pについて偏微分を行います:
この式から、価格が低い場合は価格を上げるほど売上が増え(微分が正)、価格が高すぎると売上が減少する(微分が負)ことがわかります。したがって、売上を最大化する価格は微分が正から負に転じるところ、すなわち微分をゼロにする価格です:
これを解くと、最適価格は \(P = P_0\) である事がわかります。
\(n_{\rm C}\)についての偏微分
クリック数 (\(n_{\rm C}\))を増やすことで売上がどの程度増加するかを調べるため、\(n_{\rm C}\) について偏微分を行います:
この式から、クリック数が増えるほど売上の増加率が徐々に小さくなることがわかります。例えば1クリックの増加あたりの売上の増加が500円売上を超える場合のみ広告費に見合うと考えるのであれば、次の条件を解いてn_Cの目標値を求められます:
結論
このように偏微分を用いることで、売上のように複数の変数に依存する場合でも、それぞれの変数について詳細な解析が可能です。これにより、効率的な戦略を立て、リソースを最適に配分するための重要な指針を得ることができます。
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